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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)3508号 判決 1999年3月31日

原告

株式会社蓬莱会館

右代表者代表取締役

林清文

右訴訟代理人弁護士

山本博

被告

有限会社ニューホテル三誠

右代表者代表取締役

陳貴

右訴訟代理人弁護士

中山秀行

主文

一  原告が、別紙物件目録一記載の建物の一階部分のうち別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた部分につき所有権を有することを確認する。

二  被告は、原告に対して、同目録一記載の建物の一階部分のうち別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた部分を引き渡せ

三  被告は、原告に対して、同目録一記載の建物の一階部分において別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各点を順次直線で結んだ部分に木製の中等の隔壁を設置せよ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  主文一ないし三と同旨

二  別紙物件目録一記載の建物の一階部分のうち、別紙図面記載の(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた部分が原告と被告の共有であることを確認する。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が別紙物件目録二記載の区分建物を、被告が同目録三記載の区分建物をそれぞれ所有する一棟の建物である同目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)の一階部分について、原告が別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた部分(以下「別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分」という。)が自らの区分所有権の範囲に含まれるとして、その部分に所有権を有することの確認を求めるとともに、従前、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分を原告から賃借していた被告が賃貸契約が終了したにもかかわらずその占有を継続しているとして、被告に対し、区分所有権に基づく物上請求権としての別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の引渡しと、賃貸借契約上の原状回復義務の履行として別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各点を順次直線で結んだ境界(以下「別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界」という。)に隔壁の設置を求め、さらに本件建物の同じ一階の別紙図面記載(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた部分(以下「別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分」という。)が原告と被告の共有であることの確認を求めた事案である。

二  争いのない事実等(証拠で認定した事実については証拠を( )内に示す。)

1  原告は、不動産の売買、管理、賃貸等を業とする株式会社であり、被告は、ホテル業を営む有限会社である。

2  原告は、昭和四四年四月、横浜在住の台湾出身者の同郷会(以下「台湾同郷会」という。)が使用する会館の所有・管理を目的として設立され、当初は本件建物と同じ場所に土地及び木造二階建の建物を所有して、その一部を賃貸し、一部を同郷会の会館として使用していた。

3  昭和五〇年頃、原告は右木造建物を取り壊し、等価交換方式でビルを新築する計画を立てた。等価交換方式でビルを建築してくれる業者を募集したところ、被告を含む数名の業者からの応募があったが、被告に建築を依頼することになり、昭和五四年三月七日、被告との間で、概ね次の内容を含む物権交換等に関する契約公正証書を作成した(甲三)。

(一) 被告が建築する建物(本件建物)の総床面積の三分の一以上の面積を有する専有部分につき原告が区分所有権を取得する。

(二) 右(一)の原告の専有部分のうち、原告が台湾同郷会の事務所として使用する部分を除き、すべて被告が賃料月額一二〇万円で賃借する。

4(一)  昭和五六年六月に本件建物は竣工し、右の公正証書の趣旨に従い、原告と被告間で次のとおり本件建物の専有部分が区分され、原告の専有部分については同年八月七日に、被告の専有部分については同年七月二一日に所有権保存登記がされた(甲一の一、二、甲八の一、二)。

(1) 一階部分については、公路から向かって前側左半分46.78平方メートルを被告の専有部分とし、共用部分を除く他の部分143.34平方メートルを原告の専有部分とする。

(2) 二階部分、三階部分及び四階部分の一部54.46平方メートルを原告の専有部分とする。

(3) 五階から一〇階までの部分と四階の一部98.95平方メートルを被告の専有部分とする。

(二)  なお、原告は一階から三階までの原告専有部分については一個の区分建物としての表示登記と所有権保存登記を行っており、被告も一階の被告専有部分については一個の区分建物としての表示登記と所有権保存登記を行っている(甲八の一、二)。

(三)  本件建物の一階部分には、別紙図面に記載のとおり、原告と被告の各専有部分に挾まれる位置にエレベーターが設置されているが、このエレベーターは原告と被告の共用部分である。また、別紙図面に記載のとおり、原告の専有部分の中に本来共用部分的な性質を有する障害者用便所及び配電盤が設置されている。

5  昭和五六年一〇月一日、原告は被告との間で、本件建物一階部分の原告専有部分のうち、台湾同郷会の事務所として使用している公路から向かって奥側にある別紙図面記載(ホ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(オ)(ホ)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分(以下「別紙図面記載(ホ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(オ)(ホ)で囲まれた部分」という。)を除く別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分と二階、三階及び四階の一部を賃料月額一二〇万円で賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、同年一二月二五日、その旨の公正証書を作成した(甲四)。

6  被告は右賃借部分のうち、一階の別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分を前記被告専有部分と合わせてホテルロビーとして使用し、二階をレストラン、三階(和室)、四階を客室とし、被告の専有部分である五階から一〇階(客室として使用)と合わせて、本件建物においてホテル業を営んでいたが、営業成績の悪化に伴い、二、三階については賃貸借契約を解約し(一階部分について賃貸借契約を解約したかどうかは争点であるから、後で認定する)、四階部分については賃料月額一一万円で引き続き賃借することになり、昭和六〇年九月二五日付けで賃貸借契約書を作成した(甲五の一)。四階部分の賃貸借契約はその後更新され、現在まで継続している(甲五の二ないし三)。

7  現在被告は原告が台湾同郷会として使用する部分を除き、一階の公路から向かって前側半分をホテルロビーとして、四階から一〇階を客室として使用し、ホテル業を営んでいる。原告は、一階の公路から向かって奥側半分については、台湾同郷会の事務所として使用し、二、三階部分については、被告から返還を受け、他の会社に飲食店舗として賃貸している。

三  争点及びこれに関する当事者の主張

1  別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分について、原告の区分所有権が認められるか。

(原告の主張)

本件建物が竣工した昭和五六年六月の時点では、区分所有であることを明らかにするために、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界に隔壁が存在し、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分について、原告の区分所有権が成立していた。この隔壁は法務局の登記官による登記のための実地調査が終了した後、被告によって取り壊され、撤去された。しかも、右取り壊しは原告の同意を得ずに行われたものであるから、右部分につき原告の区分所有権は消滅せず現在も存在する。

よって、右の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分について原告の区分所有権の確認を求める。

(被告の主張)

本件建物はホテルとして使用する目的で建設されたものであり、当初から一階の公路から向かって前側半分はすべてホテルのロビーとして使用されることが原告被告間で合意されていた。別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分には、ホテル一階の重要な部分である障害者用便所や配電盤が存在するにもかかわらず、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界に隔壁を設けると被告はこれらの利用ができなくなってしまうこと、また、一階ロビーはホテルの顔であり、ここに隔壁を設けて間仕切りをすることはホテル経営上考えられないことからしても、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界には、本件建物建築当初から隔壁は存在しなかった。

よって、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界に隔壁が存在しなかった以上、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分は原告と被告との共有(共用部分)であり、同部分について原告の区分所有権が成立する余地はない。

2  原告に別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分についての引渡請求権が発生するか。

(原告の主張)

右1(原告の主張)で述べたとおり、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分については、本件建物建築当初から原告の区分所有権が成立していた。原告は被告に対し、昭和五六年一〇月一日以降、一階については右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分と二階、三階及び四階の一部を賃貸したが、被告は昭和六〇年に右一階部分及び二、三階部分について賃貸借契約の解約を申し入れ、原告は同年九月末頃これに同意した。このように、一階部分について右賃貸借契約が終了したにもかかわらず、被告は、その後も同部分の占有を継続しており、原告が同部分を第三者に賃貸したり、自分で使用しようとすると様々な妨害をし、その結果、原告は今日まで自由に使用できない状況が続き、原告の現実の占有が妨げられている。

よって、原告は、被告に対して、区分所有権に基づき、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の引渡しを求める。

(被告の主張)

右1(被告の主張)で述べたとおり、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分については原告の区分所有権は成立せず、右部分は、原告と被告の共有である。被告と原告の昭和五六年一〇月一日の賃貸借契約は、右共有部分の原告持分の賃借を含むものであり、昭和六〇年九月には本件建物の一階部分と四階部分について賃貸借契約を更新したのであって(同年に解約したのは、二階、三階の賃貸借契約のみである。)、現在も別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の賃貸借契約は継続している。

よって、右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の引渡しを求める原告の請求は失当である。

3  別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界について、隔壁の設置請求が認められるか。

(原告の主張)

本件賃貸借契約においては、「賃借物返還の場合は必ず賃借物を原状に復する」旨の約定がある(甲四、第四条七項)。そこで、原告は被告に対し、本件建物の一階部分の賃貸借契約終了後、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界に隔壁を設置することを求めたが、被告はこれに応じないばかりか、原告が自己の負担において隔壁を設置しようとすると、被告は被告専有部分の使用が不自由になるとしてこれに協力せず、今後原告が隔壁設置工事に着手すると工事を妨害することは明らかである。

よって、原告は被告に対し、一階部分の賃貸借契約終了に基づく原状回復請求権として、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界に隔壁を設置することを求める。

(被告の主張)

右1(被告の主張)で述べたとおり、本件建物の建築当初から別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界に隔壁は存在しなかった。

仮に、ベニヤ板の仕切様のものをいったん取り付けたとしても、それはあくまでも原告と被告の専有部分の表示登記上の床面積を登記上明確にするためのものであり、登記官の実地調査のために設置された便宜上のものであり、原告と被告との間では登記官による実地調査が終了した後は直ちに取り外す旨の合意がされていた。

よって、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界については隔壁を取り外すとの原告と被告間の合意があった以上、隔壁の設置を求める原告の主張は失当である。

4  別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分は共用部分と認められるか。

(原告の主張)

本件建物の一階部分は、本件建物建築当初より、原告所有部分が143.34平方メートル、被告所有部分が46.78平方メートルとして区分され、その旨の各専有部分の表示登記がされている。そして、右の各表示登記をした際に法務局へ提出された建物平面図(甲一の一、二)によれば、原告所有部分は公路から向かって前側右半分(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分)と奥側半分(別紙図面(ホ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(オ)(ホ)で囲まれた部分)であり、被告の区分所有部分は前側左半分(別紙図面記載(カ)(ワ)(レ)(ハ)(ヨ)(タ)(カ)の各点を直線で結んだ線で囲まれた部分。以下「別紙図面(カ)(ワ)(レ)(ハ)(ヨ)(タ)(カ)で囲まれた部分」という。)である。右建物平面図によると、被告所有部分の奥行きは表側より10.15メートルであり、この10.15メートルを本件建物の一階の現状にあてはめてみると、別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分は登記された被告の専有部分ではなくなるのであるから、原告と被告との共用部分である。

よって、別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分が原告と被告の共有であることの確認を求める。

(被告の主張)

法務局提出図面(甲一の一、二)によると、原告が主張するような面積割合で区分所有の登記がされているが、右図面は過誤によるものであり、別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分は、現実にはホテルロビーの一部である。

第三  当裁判所の判断

一  前記争いのない事実等に証拠(甲一の一、二、甲三、甲四、甲五の一ないし三、甲七、甲八の一、二、甲九、甲一〇、甲一四ないし甲二〇、乙一の一ないし三、乙三ないし乙五、原告代表者林清文、被告代表者陳貴、証人額賀実)と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和四四年四月、横浜在住の台湾出身者の同郷会が使用する会館の所有・管理を目的として設立され、当初は本件建物と同じ場所に土地及び木造二階建の建物を所有して、その一部を賃貸し、一部を会館として使用していたが、昭和五〇年頃、新ビルの建築計画が立てられ、等価交換方式を採用して被告が新ビル建築を請け負い、昭和五四年三月七日、被告との間で、前記第二の二の4の認定のとおり、本件建物の総床面積の三分の一以上の専有区分所有権を原告が取得し、このうち台湾同郷会が使用する部分を除いた部分をすべて被告が賃料月額一二〇万円で賃借することなどを約した契約公正証書が作成された。

2  右公正証書が作成された頃には、本件建物全体について、図面に基づき原告と被告の専有部分は特定していたが、もともと原告の専有部分は、一階を除き、被告に賃貸される予定であり、被告は原告から賃借した部分と自らの専有部分とでビジネスホテルを営業する予定であったから、本件建物の内装工事はこの予定を考慮に入れて行われ、ホテルロビーと予定されていた本件建物の一階部分については、本来は原告の専有部分となるべき場所の中に身障者用の便所と配電盤が設置されていた。

3  昭和五六年六月頃に本件建物が竣工したので、原告と被告は、それぞれ合意されたその専有部分について所有権保存登記をすることにしたが、専有部分は一棟の建物の内部において構造上区分され独立の用途に供されているものでなければならず、その表示の登記の申請があると、通常法務局の登記官が現場で右の点を登記申請時の図面と照らし合わせて確認する実地調査がなされることから、本件建物の一階部分には原告と被告の各専有部分が区分されていることを明示するために、概ね別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上に仕切壁が設けられた。しかし、本件建物一階の原告専有部分については、右1のとおり、原告が台湾同郷会として使用する部分を除いて被告に賃貸することになっており、被告は一階部分の全部をホテルロビーとして使用する予定であったので、仕切壁は右調査後には取り壊すことが予定されており、そのため、容易に取り壊すことができるように鉄パイプとベニヤ板等で築造されていた。一階の専有部分を被告に賃貸する予定であった原告も、これを使用する被告が右仕切壁を設置し、後日これを取り壊すことを容認していた。

4  昭和五六年七月二一日、本件建物と原告被告の各専有部分につき表示の登記がされた。本件建物の表示登記の内容は別紙物件目録一に記載のとおりであり、原告の専有部分の表示登記の内容は同目録二に記載のとおりであり、被告の一階部分における専有部分の表示登記の内容は同目録三記載のとおりである。

なお、原告は、別紙物件目録二記載のとおり、一階ないし三階の原告専有部分を一個の専有部分として表示登記及び権利の登記をしており、被告は一階の被告専有部分についてのみ一個の専有部分としての表示登記と権利の登記をしている。

5  そして、右の各登記がされた後頃、概ね別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上に築造されていた前記仕切壁は、被告代表者である陳貴(以下「陳」という。)によって取り壊され、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分と被告の一階の専有部分とは一体としてホテルロビーとして利用された。

6  昭和五六年一〇月一日、原告は被告との間で、本件建物の一階部分のうち、台湾同郷会の使用する別紙図面(ホ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(オ)(ホ)で囲まれた部分を除く原告の専有部分(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分)と二階、三階及び四階の一部(54.46平方メートル)を賃料月額一二〇万円で被告に賃貸する旨の本件賃貸借契約を締結し、同年一二月二五日、その旨の公正証書を作成した。

7  被告は右賃借部分を、一階部分はホテルのロビーとして、二階はレストラン、三階(和室)、四階は客室として使用し、被告の専有部分である五階から一〇階(客室として使用)と合わせてホテル業を営んでいたが、昭和六〇年の賃貸借契約更新時において、業績が悪化したことにより、原告に対し賃料の減額を申し入れた。そこで、原告と被告は、話し合いの末、一階の別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分(前側右半分)と二、三階については賃貸借契約を解約し、四階部分についてのみ賃料月額一一万円で引き続き賃借することになり、昭和六〇年九月二五日付けで四階部分のみを目的とする賃貸借契約書を作成した。

8  右賃貸借契約の一部解約に伴い、被告は原告に対し、本件建物の二階及び三階は原状に復した上で返還したが、一階前側右半分については原告による明渡し要求に応じようとせず、現在もホテルのロビーとして無償で使用を続けている。四階部分については、その後も賃貸借契約が更新され、現在まで賃借が続いている。

二  別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分について原告の区分所有権の成否(争点1)について

1  右一で認定したとおり、本件建物が竣工した昭和五六年六月の時点においては、本件建物が区分所有建物であることを明らかにするために、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界に鉄パイプとベニヤ板を用いて仕切壁が設置されていたと認められる。すなわち、建物の区分所有等に関する法律上、専有部分に区分所有権が成立するためには、構造上の区分が必要であるのであり、前記認定の頃、登記申請を受けた登記官は現場で実地調査を実行したと認められるのであるから、各専有部分の区分所有権を取得する意思を有していたと認められる原告と被告において、右の仕切壁を当初から設置しなかったと認めることはできない。被告は、原告と被告間では一階部分をホテルのロビーとして使用するとの合意があり、また、現実にホテルの顔である一階ロビーに仕切壁を設けることはありえず、障害者用便所や配電盤が原告の専有部分の中に存在することなどから、建築工事は仕切壁の設置を予定するものではなく、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界には建築当初から仕切壁は存在しなかったと主張するが、被告が設計を依頼した酒本建築設計事務所の作成に係る本件建物一階部分の平面図と認められる乙一の一によれば、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界が赤線で線引きされ、それを境に原告と被告の所有部分が色分けされており、エレベーターの出入口の二か所に扉が表示されていることが認められるから、右の図面は仕切壁が設置されるべきものと指示していたと推認される。なお、前記認定のとおり、当初から原告と被告との間で本件建物一階の前側半分は被告がロビーとして使用することが合意されており、仕切壁を取り除くことが予定され、現実に仕切壁の取り壊しが行われたのであるが、これは専有部分に区分所有権が成立した後の債権的合意に基づく利用の変更であったと認められる。

よって、当初には別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界には仕切壁が存在したと認められ、原告と被告の各専有部分にはそれぞれ区分所有権が成立したと認められる。

2 次に、右の仕切壁の撤去により、原告の別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分に対する区分所有権が消滅するか否かにつき検討する。前記認定のとおり、右の仕切壁は、登記官の実地調査が終了し、本件建物と各専有部分についての表示の登記がされた昭和五六年七月二一日以後に、被告代表者である陳によって取り壊され、一階の前側半分は今日までホテルロビーとして使用されているのであるから、この部分については構造上・利用上の独立性が失われていると認められる。

しかしながら、原告の専有部分の範囲は、前記認定のとおり、本件建物の一階から三階までに亘り、所有権の客体としては一個のものであると認められ、一個の表示登記がされて右の一個の客体の全部に及んでいると解すべきである。したがって、右の仕切壁の撤去により、原告の区分所有権が消滅するか否かは、一階部分のみに着目すべきではなく一階から三階までに及ぶ原告の一個の専有部分の全体を観察して、その構造上・利用上の独立性が失われたか否かを判断すべきである。この観点で検討すると、右の認定によれば、二階部分と三階部分については右の仕切壁の撤去によっても、何ら構造上・利用上の独立性を失っているといえないことは明らかである。また、一階部分の台湾同郷会が使用する別紙図面(ホ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(オ)(ホ)で囲まれた部分についても、別紙図面で明らかなように前側半分とは仕切壁で区切られていると認められるから、構造上・利用上の独立性を有している。したがって、仕切壁の撤去により、構造上・利用上の独立性を失ったと一応考えられるのは、一階の別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分についてのみであると認められるが、これとても撤去された右仕切壁を回復設置すれば、容易に右の独立性を回復することができるものと認められる。これらの事情を総合すると、右の仕切壁の撤去は、全体のごく一部についてのみ右の独立性を失わせるものにすぎず、原告の区分所有権の客体たる一階から三階までに亘る専有部分の全体についてまで、その構造上・利用上の独立性を失わせるものではないと考えられる。なお、原告は登記官の実地調査終了後の仕切壁の取り壊しを容認していたと認められるが、それはあくまで区分所有権が成立した後の利用に関する債権的合意の成立を意味するものにすぎず、この債権的合意により仕切壁が撤去されたとしても、一階前側半分についての原告の専有部分に対する区分所有権が消滅するとは到底いえない。

このようにして、右各事情を総合すると、一階ないし三階に亘る原告の専有部分の全体については未だ構造上・利用上の独立性は失われていないと認められ、一階の別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分についても原告の区分所有権はなお存続すると解するのが相当である。

3  以上より、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分について、原告の区分所有権確認を求める原告の請求は理由がある。

三  別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の引渡し請求(争点2)について

1  右の認定のとおり、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分について原告は区分所有権を有すると認められるところ、被告は、抗弁として、この部分について賃借権を有すると主張するので検討する。しかしながら、この主張に対しては、原告において昭和六〇年の賃貸借契約更新時において、本件賃貸借の目的物のうち、二、三階部分のみならず、一階の別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分についても解約されたと主張するところ(再抗弁)、前記認定によれば、原告主張のとおりの解約の事実は、これを認めることができるというべきである。

2  右の認定に対して、被告は、昭和六〇年に本件賃貸借契約の一部解約がなされたのは二、三階部分のみであり、一階前側右半分は四階部分とともに継続して賃借し続けるとの合意があったと主張するが、昭和六〇年の賃貸借契約更新時に作成された賃貸借契約書である甲五の一によれば、被告の賃借部分として「四〇一号、四一一、四一二、四一三」とのみ記載され、一階前側半分を賃借物とするとの明記がなく、その後の更新契約書である甲五の二、三においても賃貸借契約の目的物は四階部分の各部屋のみであることが明らかである。また、前記認定のとおり被告が昭和六〇年の更新時以降、原告に支払う月額一一万円の賃料は、甲一四によれば四階の賃貸床面積(54.46平方メートル)に坪当たりの単価六六七五円を乗じて算出されたものであると認められるから、更新後の賃貸借契約が四階部分のみを目的としていることは、これを優に認めることができる。一階部分についても更新されたとする被告の主張は採用することができない。

3  このようにして、被告は、一階前側右半分について賃貸借が終了しているにもかかわらず原告の明渡し要求に応じず、現在もホテルのロビーとして無償で使用を続けていると認められ、原告は被告に対し、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分についての区分所有権による返還請求権に基づき、同部分の原告への引渡請求権を有するといえる。

4  よって、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の占有を原告に引き渡せとの原告の請求は理由がある。

四  隔壁の設置請求(争点3)について

1 原告は、賃貸借契約終了に基づく原状回復請求権として別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上に隔壁を設置することを求めているところ、前記認定事実のとおり、一階部分についての賃貸借契約は終了し、本件賃貸借契約においては、原告と被告との間で、賃貸借契約解約に伴う賃借物返還の場合は必ず賃借物を原状に復するとの約定があること(甲四、第四条七項)が認められるから、被告は、一階部分の目的物につき、右約定のとおりの原状回復義務を負うというべきである。そして、前記認定のとおり、本件賃貸借契約の成立の際には本件建物一階の別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界には仕切壁が設置されていたと認められるのであるから、被告の原状回復義務の内容は、右の仕切壁の復旧に及ぶと解すべきである。

したがって、原告は、賃貸借契約終了に基づく原状回復請求権として別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上に隔壁の設置請求権を有する。

2  これに対して、被告は、仮に仕切壁としてベニヤ板の仕切様のものをいったん取り付けたとしても、それはあくまでも原告と被告の専有部分の表示の登記のための調査に備える便宜上のものであり、登記官の実地調査終了後は別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界については隔壁を取り外すとの合意があった以上、隔壁の設置を求める原告の主張は失当であると主張する。

しかしながら、前記認定事実のとおり、仕切壁の撤去は、本件賃貸借契約によりホテルロビーとして一括使用することが予定されていたことによるものであるから、いわば、本件賃貸借の契約内容の一部となっていたものと認められる。原告と被告間で今後一切隔壁を設置しないとの合意があったと認めるに足りる証拠はない。本件賃貸借に関する原告の意思としては、被告に賃貸している間は賃借物について被告の自由な使用を認めるが、一階部分につき賃貸借契約が終了した以上は、被告の原状回復義務の対象となるというものであると解すべきである。

3  以上より、一階前側右半分の賃貸借契約終了に基づく原状回復として別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上に隔壁の設置を求める原告の請求は理由があるが、前記認定のとおり、当初から仕切壁は、直ちに撤去することが予定されていたために、ベニヤ板で築造されていたのであるから、賃貸借契約終了に基づく原状回復義務の内容としても木製の中等の仕切壁が回復されるべきであると解される。したがって、被告の回復の義務内容は木製中等の隔壁の設置となるものというべきである。

五  別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分についての共有権の成否(争点4)について

1  本件建物の所有権保存登記(甲八の一、二)によれば、一階につき原告所有部分が143.34平方メートル、被告所有部分が46.78平方メートルとして区分されており、右区分を登記した際に法務局に提出された建物平面図(甲一の一、二)によれば、原告所有部分は公路に向かって前側右半分(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分)と奥側半分(別紙図面(ホ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(オ)(ホ)で囲まれた部分)であり、被告の区分所有部分は前側左半分(別紙図面(カ)(ワ)(レ)(ハ)(ヨ)(タ)(カ)で囲まれた部分)である。右建物平面図によると、被告所有部分の奥行きは表側より10.15メートルであり、一階全体の奥行き22.08メートルから右10.15メートルと原告所有の奥側半分(別紙図面(ホ)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(オ)(ホ)で囲まれた部分)の奥行き10.89メートルを引いた幅1.04メートルと、被告の所有部分の長さ6.20メートルで囲った部分(別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分)は登記された被告の区分所有部分ではなくなることになる。

2  しかしながら、建物の区分所有等に関する法律における共用部分とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び同法第四条二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいい、更に、専有部分以外の建物の部分とは、法律上当然に共用部分となるものと規約によって共用部分となるものに分かれるところ、別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分は当然に共用部分となるものでもなく、規約によって共用部分となっているわけでもない。さらに、専有部分に属しない建物付属物や同法第四条二項の規定により共用部分とされた附属の建物にも該当しない。前記認定事実のとおり、昭和五六年六月当時、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上には隔壁が設置されており、一階前側半分については隔壁を境界として、右側半分(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分)を原告の所有とし、左側半分(別紙図面記載(オ)(カ)(タ)(ヨ)(ハ)(ニ)(オ)の各点を直線で結んだ線で囲まれた部分、以下「別紙図面(オ)(カ)(タ)(ヨ)(ハ)(ニ)(オ)で囲まれた部分」という。)を被告の所有とする旨の合意があったと考えられ、設計図面(乙一)にもその旨色分けされて原告と被告の所有部分を特定していることからすれば、別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分を原告と被告の共用部分とする意図であったとは考えられない。

確かに、右1で述べたとおり、法務局へ提出された建物平面図(甲一の一、二)によれば別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分は登記上被告の専有部分であるとは認められないが、区分所有の成立は登記の有無によってのみ認められるものではなく、数人が共同で一棟の建物を建築する場合において、その数人の間に各人がそれぞれ建物の構造上・利用上の独立性を有する各区分された部分の所有権を原始的に取得する旨の合意があるときは、建物の完成と同時に区分所有が成立すると解される。したがって、一階前側半分については隔壁を境界として、右側半分(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分)を原告の区分所有とし、左側半分(別紙図面(オ)(カ)(タ)(ヨ)(ハ)(ニ)(オ)で囲まれた部分)を被告の区分所有とする旨の合意があり、本件建物が完成した時点でそれぞれの部分について原告と被告の区分所有権が成立したと解すべきである。

3  したがって、別紙図面(オ)(カ)(タ)(ヨ)(ハ)(ニ)(オ)で囲まれた部分の専有部分の表示の登記は、何らかの過誤により実際の被告の区分所有権の範囲よりも少ない床面積を記載した甲一の二の平面図を添附して申請され、これによって登記がなされているが、被告の専有部分の区分所有権の範囲は当初から別紙図面(オ)(カ)(タ)(ヨ)(ハ)(ニ)(オ)で囲まれた部分であったと認められる。

よって、別紙図面(オ)(ワ)(レ)(ニ)(オ)で囲まれた部分が原告と被告の共有であることの確認を求める原告の請求は理由がない。

六  結論

以上によれば、本件請求は、別紙物件目録一記載の建物の一階部分のうち別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分につき原告が所有権を有することの確認と同部分の原告への引渡し、及び別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上に隔壁の設置を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官慶田康男 裁判官高橋隆一 裁判官玉田有紀)

別紙物件目録・図面<省略>

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